複雑な爆釣予測にライターの意見があてにならない理由がここにある!

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世界を揺るがした、衝撃のベストセラー!
「みんなの意見 は案外正しい」 (角川文庫)

ジェームズ・スロウィッキー (著)、文庫802円


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Golyoko評

二〇世紀初頭、イギリスの家畜見本市のイベントで、太った雄牛の体重を当てるコンテストが開催された。

投票に参加したのは787人。参加者は、現場で雄牛の姿を思い思いに眺めて体重を推定し、その値を書いて投票するというものだ。雄牛の実際の体重は198ポンド。これに最も近い推定値を投票した者が優勝するというルールだ。

さて、結果はどうだっただろう。

当然、優勝者は決定したのだが、なんとも奇妙な結果が得られた。参加者全員の投票値の平均を計算してみると197ポンドで、誤差はたったの1ポンドだった。この値は、優勝者よりも遥かに実際の値に近いものだったのだ!

もうひとつ奇妙な事例を挙げよう。

経済学者のジャック・トレイナーが、授業中に56人の生徒たちに、瓶のなかのジェリー・ビーンズの数を、目分量で推定させてみた。

さて、結果はどうだっただろう。

学生それぞれの目分量の推定値の平均値を計算してみると871個。この値は正解より21個多いだけだった。ちなみに、これより正確な推定をした学生は1人だけだったとのこと。

これらの事例に共通するのは「参加者の中で、正確に近い予測をした人間(ある意味才能のある人間)よりも、種々雑多なレベルの人間の予測の平均の方がより正確であることがある」ということだ。

本書のスロウィッキーの主張をまとめると、「一人一人の予測はそれほど精度が高くなくても、平均をとると物凄く正確な予測を行うことが案外多い」ということになる。

従来、よく「平均値なんて意味ないよ」とか「みんなの意見をいちいち聞いていたら、良いものなんか出来ないよ」と言われてきた。確かに、新商品開発や新サービス開発みたいな、クリエイティビティを求められるシーンではそうかもしれない。

しかし、確固とした「真実」や「正解」がある物事を予測する際には、特定の専門家や、一握りの才能のあるものの予測よりも、一般の素人を含めた、幅広い人々の意見を集約したほうが、はるかに真実に近い結果が導かれることが案外多いのである。

これは、単純な話だが、結構衝撃的な事実だ。

本書の原題は
「The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business, Economies, Societies and Nations」
(群衆の英知:なぜ多数は少数より賢いのか。群衆の英知はビジネス、経済、社会、国家においてどう表れるか)

「The Wisdom of Crowds」は「群衆の知恵」とか「群衆の叡智」「集合知」と訳されることが多い。作者のジェームズ・スロウィッキーは、米国の雑誌「ニューヨーカー」のビジネスコラムニストだ。

雑誌のコラムニストというと、なんだかチャライイメージがあるかもしれないが「ニューヨーカー」のビジネスコラムニストには、研究者レベルの者も多く、本書もかなり深い「研究」に近いレベルの成果をまとめた本と言っていい。

実際この本も、デジタルテクノロジーや経済学、物理学、システム工学等の学問分野や、実際のビジネスの場にも大きな影響を与え、世界中でベストセラーとなった名著だ。しかし、本格的かつ深遠なテーマを扱っているにも関わらず、難しい解説は一切なく、全くの学問素人でも、面白く読めるようになっているところが、作者のコラムニストとしての手腕の高さを感じさせる。

また、中で登場する事例についても、ウィキペディアやgoogle、Twitter、YouTube、Amazon、ebay のような、私たちがよく使っているサービスの話や、沈没した潜水艦の捜索のエピソードなど、興味深い事例が多数挙げられている。

しかし、中には「ほんとにそうなの?」と思う方もいるだろう。確かに、平均が常に正しいとは限らない。

スロウィッキーは群衆の英知が失敗するケースも挙げている。予測イベントへの参加者が、他人や周りの意見を気にして、自分自身の考えを主張しなくなった場合である。それを細かく分析すると、以下の5つの場合が挙げられる。

◎均一化
群集の中では多様性が重要。

◎中央集中
スペースシャトルのコロンビア号空中分解事故においては、NASAのマネジメントの官僚的階層構造が事故原因の一つだった。

◎分裂
アメリカのCIA等の組織では、各部署が縦割り状態となっていて、情報が共有されず、それが9.11テロが防げなかった原因の一つとして挙げられた。 その後、アメリカの国家情報長官とCIAは、情報共有のためのネットワークIntellipediaという、情報共有システムを構築した。

◎模倣
「情報なだれ」とも言う。口コミみたいなもの。 初期のいくらかの人の決断が、あとで決断をする人の意見に影響を与えること。

◎情動
周りや他人からの圧力、群れ本能、極端な例では集団ヒステリー。

これらの影響が大きいと、「群衆の”叡智”」の予測精度は下がり「群衆の”叡痴”」となってしまう。「群衆の叡智」に関する研究は、今でも盛んに進められており、既に、実験経済学等の学問分野だけでなく、アメリカの大統領選での当選予測、更には、実際の株式取引ビジネスなんかでも実用化されている。

最後に、もう一つ面白い「群衆の叡智」の事例をあげてみよう。

1999年。チェス世界王者ガルリ・カスパロフが、インターネット上の「群衆の叡智」と対決した「カスパロフ対ワールドチーム」というイベントだ。

ワールドチームはだれでも参加でき、参加者数は75ヵ国以上からの約5万人で、この5万人が、24時間ごとに次の一手について投票し、その投票数が最大だった手を次に指すというルールだ。

ちなみに、参加者のチェスの腕前のレベルは種々雑多だった。ルールもよく知らない、ズブの素人も混じっており、考えられないくらい悪い手も1割程度あったとのこと。しかし、このイベントは世界中で話題になったこともあり、ハイレベルのチェスプレーヤーも議論に参加していた。

例えば、アイリーナ・クラッシュという当時15歳の元・全米女子王者が、ネット上の議論にかなり積極的に参加し、参加者の多くが納得できる方向に、議論を集約していったとのこと。つまり、このワールド・チームは「まとめ役が存在する場合の集合知」の事例といえる。

さて、結果はどうだっただろう。

残念ながらワールドチームはカスパロフに敗北した。しかし、大方の予想を裏切り、かなり善戦したのである。カスパロフは62手で勝利したが、彼いわく、

「どの世界チャンピオン戦より苦労した」。

これらの話に興味がある方は、是非本書をご一読してみてはいかがだろう。


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また、当サイトには、簡単ではあるが、皆さんの意見を集約するアンケートシステムを用意しておいたので、是非、ご回答頂けると有難い。幅広い皆さんのご意見が「The Truth Of Seabass」の一端を垣間見させてくれるかもしれない。

Wisdom of Crowds : 釣りに関するアンケート

また、この下に、皆さんの評価や口コミも投稿できるようにしてありますので、この本をお読みになられた方は、ご自身のレビューも是非投稿してください。

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