最近は、花見に行く方も減ってきているのだろうか。
先日、友人達と居酒屋に飲みに行ったとき、花見に行ったか聞いたところ、誰も行っていなかった。私は、毎年桜が咲くのを楽しみにしており、開花の時期から、葉桜になるまで、家の近くの桜を毎日のように見に行く。平日は大体、深夜になることが多く、今日も夜中の1時近くに行ってきた。
桜というのは、1年間ずっと準備を続け、花を思いっきり咲かせるのは1週間程度。特に、冬場は黒い枝だけの、ずっと寂しい状態が続くが、春になると、その黒い枝から、突如美しいピンクの花を咲かせ、満開の時期には、目を奪われるような華やかな姿に変化する。
そんな光景を見るたびに思い出すアングラーが居る。
もう10年以上前になるだろうか。彼とは、1度だけ東京の京浜運河で、仲間と共に一緒に釣りをしたことがあるのだが、彼は1年に「1日」しか釣りに行かない。
1年間、ずっとハンドメイドのミノーを作り続け、その中の最高の出来のモノを一本だけ持って、最高の条件と自分が思う日に京浜運河に1日だけやってくる。勿論、その1日のために、事前に何度もポイントの様子見はする。しかし、ルアーは投げない。
そんな彼と、運よく釣りが出来たその日、私を含め皆カスリもせずにボウズを食らったが、只一人、彼だけは1匹釣ったのだ。確か、50㎝そこそこのサイズだったと思うが、あの時の彼の笑顔は、未だ忘れられない。
1年間、その日のためだけに準備をし、ルアーも自分で作り、誰も釣れないなかで仕止めた50㎝。あの1匹にどれだけ嫉妬したことか。彼は、その日どんなに爆釣したとしても、その年は2度と釣りはしないと言っていた。そして、また明日から木を削り始めると。
そういうスタイルで、果たして釣りが上手くなるかどうかとも思ったこともあるが、もはや彼にはそんな他人の評価や価値観は関係ないのだろう。彼にとっては、あの1匹がその年の彼にとっての「完璧なスズキ」だったのである。
ただ、そんな彼だったが、実際話をしてみると、驚くくらい京浜運河について、詳しかった。どれだけ、1年間準備をしてきたのかがすぐに分かるレベルだった。
当時私は、かなりその辺りに詳しいと思っていたが、1年に1度しか釣りをしない彼から教わる事も多かった。いい意味で、化け物クラスの変人だ。全くの無名な人間でもそういう方はいるのだ。私は井の中の蛙になっていた自分を、その時痛いくらい感じさせられた。
その後、様々な化け物達と知り合う中で、上には上が居るということを肝に命じるようになった。また、やっかいなことに、そういう化け物クラスの方ほど謙虚で多くを語らない。下手に偉そうなことを言うと、マジで後で悔しい思いをさせられるのだ。
私の「完璧なスズキ」とはどんなスズキだろう。
桜の季節になると、それが毎年頭に思い浮かぶ。
今年の桜も完璧に美しい。
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